記事投稿日 : 2020/08/11

辻村深月さんの「かがみの孤城」子どもたちに読んでほしい一冊!

「この本、面白い!」

知人がそう話していた本。辻村深月さんという作家の方は知っていたけれど、著作は読んだことがない。その上、表紙がファンタジー感満載。あまりファンタジーものが得意じゃないので、どうしようかと悩んでいましたが、いろんなジャンルの本を経験しておいても損はないと思い、読んで見ることにしました。

それがはじまりだった。

あなたを、助けたい。

学校の居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、白のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた|――。なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に送る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

ポプラ社ウェブサイトより https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/

                                 

冒頭の自己紹介から心を掴まれた。子どもたちの心の描写がリアルで細かくて、大人の私でもこれでもかってくらい感情移入をして読めた。圧巻は415ページからの怒濤の展開(ちなみに小説自体は544ページ)。ページをめくる手が止まらなくなりました。本に世界にのめり込めた幸せな時間でした。

そこには、ファンタジーなのにリアルな、なんとも不思議な世界があった。それはまるで、主人公たちにとっての『かがみの孤城』のような、そんな世界に出会えた気分。「もっと早く読んでおけば!」が感想。食わず嫌いならぬ、読まず嫌いは良くないなと思いました。

とにかく子どもたちに読んで欲しい本。そして、何かに苦しんでいて、そこから抜け出すヒントを見つけたい大人にもオススメな一冊です。

《ここからネタバレ有》『かがみの孤城』は主人公たちだけでなく多くの子どもたちにとっても大切なもの!

そこへ入ると、不思議な世界が待っている。

欲しいものがあって、楽しいものもあって、話したいことがあって、訊きたいこともあって、現実と何となく似ているけど、少し違う、会いたい人が居る場所。

主人公たちにとって鏡の向こうに広がるお城がそんな場所であるように、私にとっても、この本の中に広がる『かがみの孤城』は、確かにそんな場所でした。

そして、そんな場所に出会えたら、救われる子どもや保護者の方々も沢山いるんじゃないのかなと思った。例えば、学校に行けないと悩む子どもや保護者の方々がこの本を読んだら、「あ、世界はとっても広いんだ」ということに気付けるだろう。

物語の主人公たちは、中学生。今まで指導してしてきた多くの生徒たちと同年代です。

彼らは、時に傷つき悩み闘い苦しむ。『かがみの孤城」の主人公たちのように、学校に行けない自分を責める子もいる。本当は世界はもっともっと広くて優しくて素敵なのに、なかなかそれに気付けない子たちもいる。

「闘わないでいいよ」とフリースクールの喜多嶋先生は彼らに言った。その通りだなと思った。闘うことも必要だけど、闘わないことも大切。どこで闘うかは、何に本気になるかは、君が選んでいい。広い広い世界で、君が夢中になることは、君が見つければいい。

ただでさえ現代は、価値観多様化が叫ばれていて、家に居ながら世界中の人とつながれる時代です。『かがみの孤城』とまではいかないけど、例えばインターネットの世界では匿名で多くの人が世代を超えてつながっている。

生きる場所は、どこにでもある。自分にとっての『かがみの孤城』が、あなたにとっての『かがみの孤城』が、きっとどこかにある。「願いの鍵」はないけど、願いを叶えることはいくらでもできる。たとえ、たった自分一人だとしても、私たちはどこへでも行ける。何でもできる。

『かがみの孤城』が自分にもあると知ることで、たったこれだけのことで、人は強くなれる。

もう少しネタバレ。途中「あ、これって、それぞれの中学生が生きている時代が違うんじゃないか」と気付いたけど、その怒濤の展開にワクワク感がなくなることは全くなかった。

ミステリーって謎が解けてしまうと魅力は半減するはずなのに、そうならなかったのは、「きっと、それが大切ではない」からだと思った。

圧巻の後半戦。伏線が次々と回収されていく中で「やっぱりな」と思いながらも、目を見張ったのは、彼ら一人一人の心の葛藤と成長でした。

ウレシノの一歩。マサムネの「お疲れ様」。こころが乗り越えた痛み。スバルの夢。フウカの優しさ。リオンの秘密とお別れ。オオカミさまの願い。アキの未来。

見どころがこれだけあって、謎なんでいい意味でどうでも良くなっていた。そんな一人一人の成長の跡が、とてつもないワクワクとドキドキと感動をくれた。『かがみの孤城』に迷い込んだ(導かれた)子羊たちは、見事に迷いから解き放たれて、そして歩き出す。

素敵で温かい気持ちも、嫌で汚い気持ちも、抱えることってあるよね。人間だから。大切なのは、それにちゃんと向き合って「怖いもの」にしないこと。そんな色とりどりの気持ちたちを見つけて、「取っておく」「捨てる」を選ぶ。必要なら闘って、必要じゃなければ忘れちゃって、そのどれもが難しいようだったら、逃げ出してもいい。だから、どうしようもなくなったときの声の出し方や逃げ方や逃げ場所は、ちゃんと知っておこう。

そして、子どもたちがそうやって闘っているときに、または苦しんでいるときに、そっと手を差し伸べられるような大人でありたいと思った。喜多嶋先生のような。今、彼らの日々が上手くいってなくても、気持ちがちゃんと言えなくても、どんなに大きな不安や迷いを抱えていても、そんな彼らに気付いて、「あなたはあなたのままでいいんだよ」と言える、そんな大人に。

塾という場所も、子どもたちの『かがみの孤城』みたいな存在になれたら幸いです。

本日も出雲市の個別指導塾 すずかけの木にお越しいただきありがとうございました。まだまだいい本に巡り会えそうな予感。